オバサンの独り言

 アームストロング(米)が史上初の6連覇を果たして、自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」が終了した。「今年こそは優勝!」と期待されていたT-モバイルチームのヤン・ウルリッヒ(独)は4位に終わった。

 アームストロングの強さを見せつけられた今年のツール・ド・フランスで、ちょっとしたハプニングがあった。自分のチームの監督の指示通りにキャプテン(伊)を助けるという当然のことをしたドイツ人選手に対して、ドイツ第一テレビ(ARD)の解説者は、ドイツ人である彼の行為がドイツ人ヤン・ウルリッヒの勝利を妨げ、米国人アームストロングを助けることになったとして、皮肉たっぷりに批判したのである。

 翌日、批判されたドイツ人選手は道路沿いで応援する多数のドイツ人ファンから「ユダ!」と罵倒されたそうだ。しかも、ドイツ第二テレビ(ZDF)は、彼がインタビュー中に、「公平でない、不適当な報道」を指摘したことから、急にインタビュー映像をカットしてしまったというオマケまで付いたのである。

偶然にもその日のARD解説者のコメントを聞いていた私は、あまりにも露骨な偏見に満ちたT-モバイル/ヤン・ウルリッヒ寄りの解説に驚いた。全選手が団結してアームストロングに対抗すべきだとか(要するに、全員でヤン・ウルリッヒを助けるべきだと言いたいのである)、総合優勝できるのだから、区間賞ぐらいは他の選手に「プレゼント」すべきだと公言して、「貪欲なアームストロング」を揶揄していた。このテレビ解説者は、ひいきの選手が勝てなかったので地団太踏んで悔しがっている子供のように、個人的感情をむき出しにしていたのである。

 後で、独企業T-モバイルがARDのスポンサーであること、この解説者はヤン・ウルリッヒに関する本を書いており、T-モバイルとも密接なビジネス関係にあることを知り、彼の偏ったコメントの謎が解けた。しかし、公私混同して、公平さに欠けるこの解説者に公共放送のジャーナリストとしての資格があるのだろうか。報道の自由と公平な報道を守るべきジャーナリストが公然と報道を検閲し、操作している現実を見せつけられる思いがした。唯一の救いは、多くの視聴者がテレビ放送局に猛烈な抗議をしたことである。

 ツール・ド・フランスは国別チームの競争ではない。チームのスポンサーは民間企業であり、チームは様々な出身国の選手で構成されている。それにもかかわらず、この有様である。いや、民間企業がスポンサーだからこそ、利害関係が出てくるのかもしれない。アテネ五輪では、公平な報道を願いたいものである。

 私達は、色眼鏡で見るジャーナリストの報道に惑わされないようにしなければならない。

2004年7月26日)

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