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大手出版会社、旧正書法への復帰を発表

 アクセル・スプリンガー社とシュピーゲル出版会社は8月6日(金)、統一したドイツ正書法を回復するために、再び旧正書法に復帰すると発表した。他の出版会社と通信社に対して、フランクフルター・アルゲマイネ紙(ドイツで唯一の全国紙として、新しい正書法を拒否し、旧正書法を堅持していた)と両社のイニシアティブに倣うよう呼びかけるとともに、後に続く世代への責任から、「国に処方された読み取り能力障害」に終止符を打つよう訴えた。

 両社はすべての出版物を再び旧正書法に切り替える。旧正書法復帰の理由としては、国民の間で新正書法のアクセプタンスが欠けること、混乱と不安感が増していることを挙げている。両社の出版物は人口の約60%に購読されている。スプリンガー、シュピーゲル、フランクフルター・アルゲマイネの3社は、旧正書法の有意義な変更への道は閉ざさないという。両社の発表と同時に、南ドイツ新聞(ドイツ最大の全国紙)もこのイニシアティブに従い、旧正書法に戻ることを明らかにした。

 ニーダーザクセン州のヴルフ州首相が6月半ばに、党を超えたイニシアティブにより、新しい正書法を2005年8月1日に正式に導入する(学校と官庁で法的拘束力がある)という全国文化相会議の決定を修正する意向であることを明らかにしたことから、正書法改革論争が再燃していた。(2004年6月7日のニュースを参照)

 1998年8月1日にドイツ、オーストリア、スイスに導入された正書法改革は最初から反対が多く、激しく議論されてきた。新聞社や通信社は学校に導入された新しい正書法を1999年8月1日に採用したが、フランクフルター・アルゲマイネ紙だけは2000年8月1日に再び旧正書法に戻った。

 多くの作家は本を新正書法で出版することを拒否しており、教科書と教材以外の本はほとんど旧正書法で出版されている。6年前から学校では新正書法が教えられているが、学校外では新旧両方の正書法が混ざり合って使われており、学校で学ぶドイツ語と読むドイツ語の溝が広がっているのが現状である。Emnidアンケート調査結果によると、ドイツ人の77%は正書法改革を「有意義ではない」と評価している。特に高い年齢層が新しい正書法を拒否している。

 スプリンガー社とシュピーゲル社の共同発表に対する反響は大きい。バウアー出版会社はこのイニシアティブをポジティブに評価している。それに対して、フォークス誌は新正書法を堅持する意向である。通信社は顧客の反応を見てから決定するという。10月中旬の全国文化相会議の決定を待ってから、最終決定をする出版会社が多いと見られている。

 一方、全国文化相会議のアーネン議長(ラインランド・プファルツ州教育相)は、大手出版会社の旧正書法復帰宣言は「国民に混乱と不安感をもたらすだけだ」として厳しく批判した。一般的に、キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)が正書法改革の撤回ないし修正を支持しており、社会民主党(SPD)と緑の党が正書法改革の堅持を主張している。ニーダーザクセン州のヴルフ州首相は出版会社のイニシアティブを歓迎しており、10月初頭の州首相会議で正書法改革撤回を働きかける意向である。

 6年前に新しい正書法が学校で導入されたが(2005年8月までは移行期)、特に文化人や出版会社、ジャーナリストの多くが正書法改革に反対していた。国民の間でも反対派が多数を占め、改革に懐疑的であった。今回の大手出版会社の旧正書法復帰宣言により、政治家が反対を押し切って進めてきた正書法改革が土壇場になって覆される可能性が出てきた。

2004年8月9日)

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