オバサンの独り言

 改革ブームのドイツでは、後から後から新しい法律が制定されている。さすがに何でも法律でキチッと規定する 「秩序の国」だなと感心していると、いやいやそうでもなさそうだ。法律が施行される時点になると、必ずといっていいほど、問題が出てきて、大騒ぎになる。

 そのいい例が保健改革法(法定疾病保険近代化法)、最近ではハルツIV 法と正書法改革だ。年明け早々初診料や給付サービスで大混乱し、ようやく静かになったかと思ったら、今度は失業手当 II を巡って喧々囂々。それに追い討ちをかけるように、大手出版会社が旧正書法復帰宣言で政治家にドカーンと一発食らわした。

 これは、熟慮した長期的なコンセプトのない政治の帰結である。常に目先の選挙に縛られて、その時その時に都合の良い、人気取り政治をしている政治家には一貫性がない。国民に十分に説明もせずに、大急ぎで法律を成立させ、具体的な実施で問題がでてくると、あちこち応急措置で取り繕うのが精一杯。確信を持って作った法律ではないから、国民を納得させることもできない。なんとも情けないドイツの政治劇である。

 正書法改革は6年前の導入当時から反対意見の方が多かった。世論と専門家の意見を無視して、新正書法を無理やり導入し、6年間も子供たちをモルモット扱いしてきた政治家の責任は大きい。文化の基盤である言語の改革をまるで保健改革ででもあるかのように安易に取り扱った政治家は反省しなければなるまい。正書法は、次の政権が法律改正して簡単に変更できるような案件ではない。面子があるから、今さら後戻りできないという安直な考え方は許されない。

 「他の問題をいっぱい抱えているのだから、決まったことを今さら覆す必要はない」とか、「莫大な費用がかかる」とか、「もう6年間も子供たちが勉強してきたのだから、何を今さら・・・」と発言する政治家が多い。しかし、ドイツ語はこれから何十年、何百年も使い続けられていくのである。そして、ドイツ語で読み書きするのは国民全員なのである。まさに、言語に対する政治家の認識不足の産物が正書法改革だといえよう。

 しかしながら、言語を仕事の道具にしているメディア界は、もっと早い時期に行動を起こすべきではなかったのか。待ちすぎた感はあるが、まだ 遅すぎない。国民が納得できる正書法改革が望まれる。

 夏休みを終えた政治家は机に山積みされた問題を処理しなければならない。この秋は政治家の力量と勇気が試されそうだ。

 ところで、どこかの国の政治家も似ていませんか?

2004年8月9日)

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