オバサンの独り言

 2005年11月22日はドイツ初の女性首相が誕生した歴史的な日となった。「彼女にはできない」といつも過小評価されてきた旧東独出身のメルケル氏が政治権力の頂点に登り詰めた。常に自己をコントロールし、感情を出さない冷静沈着なメルケル氏がケーラー大統領から新首相に任命された後、報道陣に向かって「満足しています。幸せです」と語った 時の笑顔が印象的だった。

 南ドイツ新聞によると、メルケル氏は自然科学会議で、「若い女性の学校教育を改善するために何を望みますか」という質問を受け、男子生徒と女子生徒が一緒に一つの実験器具で実験する光景 について語ったという。「女子生徒は観察し、あれこれ考えて、何かを案出します。それを書き出し、それから実験を試みます。それに対して、男子生徒は最初から実験器具を独占します。最初の5分間は、どう機能するかすべて知っていると思い込んでいますが、10回目の失敗の後でようやく、自分が 何も分かっていなかったことに気付きます。実験器具が壊されなかったら幸いというわけです。」

 メルケル氏は、「男子生徒のグループと女子生徒のグループを分けて実験させることを望みます」と答えたという。この体験談には男女の 違いだけでなく、物理博士であるメルケル氏の強さの秘訣が隠されているように思う。イデオロギーや偏見に囚われることなく、冷静に客観的に分析、判断し、緻密に計画を立てて、 黙って結果を忍耐強く待つ彼女の政治スタイルは旧西独の多くの職業政治家とは違う。目標とそれを達成しようという意志があると、彼女は強い。

 メルケル氏は女性かつ旧東独出身というドイツ政界における二つの不利な条件をハンディキャップと することなく、柔軟に受け止めて きた。特に強調することもなく、卑下することもない。外見ではなく、中身で勝負しようとするから、性別とか東西の違いは本質的な問題にならないのだろう。政治家にしては珍しく 自然体である。

 ドイツが 極めて厳しい状況にある時にメルケル氏のような女性首相が誕生したのは偶然ではないかもしれない。制限された可能性の中で最大限の成果を追求し、地道に国の舵取りをし ていかなければならない時代には、一人のパフォーマンスよりもチームワークの方が効果的だ。華やかな舞台ではなく、舞台裏での地味な仕事が物を言う。

 メルケル政権は前途多難な4年間を控えている。特急列車に乗って 抜本的構造改革を推進しようと 考えていたメルケル氏は政敵であった政党との大連合を余儀なくされ、急行列車どころか鈍行列車で改革を我慢強く進めていかなければならない。列車には意見の異なる様々な乗客が乗り込んでいる。途中で脱線することなく、無事に目的地に到達できるかどうかはメルケル氏の政治手腕と指導力にかかっている。

 2005年11月22日、懐疑的な視線を受けながら 、メルケル号は目的地を目指して発車した。

2005年11月23日)

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