オバサンの独り言

 メルケル新政権が無事に始動したと思いきや、米中央情報局(CIA)疑惑が舞い込んできて、連邦政府はシュレーダー前政権の政治の後始末に苦慮している。特に、CIA疑惑の中心的存在であるシュタインマイヤー前首相府長官が新外相であるために、問題はさらに複雑化している。

 CIAは秘密拘置所を設け、ドイツ国内の空港をテロ容疑者の移送に無断利用したのか。レバノン系ドイツ人がテロリストと誤って拘束され、アフガニスタンの秘密収容施設で拷問された事実をシュレーダー前政権のだれが、いつ、どこまで知っていたのか。在独米大使から連絡があった後の措置は正しかったのか。ドイツの連邦情報局がレバノン系ドイツ人の情報をCIAに流したのか・・・。

 なにしろ CIAを巡る疑惑なので、憶測が憶測を呼び、スパイ小説を読んでいるようだ。米国の圧力に屈せずにイラク戦争に反対した「平和の首相」であることをトレードマークにしてきたシュレーダー前首相の対米外交の裏腹が見えてくるかもしれない。

 CIA疑惑でシュレーダー前政権が再び注目の的になっている中、シュレーダー前首相が反対を押し切って強引に調印に持ち込んだ独露プロジェクト「北欧ガスパイプライン」の建設工事が始まった。これはロシアからバルト海を通ってドイツに直結する天然ガス輸送パイプラインで、その起工式の日、スイスに拠点を置く独露コンソーシアム「北欧ガスパイプライン」に51%資本参加しているロシア国営ガス会社ガスプロムのミラー社長は、シュレーダー前首相がこの コンソーシアムの監査役会会長に就任すると発表した。プーチン露大統領がシュレーダー氏の就任に尽力したという。

 北欧ガスパイプラインプロジェクトはロシアと外交的に問題のあるポーランドやバルト3国、ウクライナを除外しているため、これらの国々から強い反発を受けていた。未だにドイツとポーランドの大きな外交問題になっている。プーチン露大統領と個人的にも親交のあるシュレーダー前首相がこれら諸国の反対と国内の批判を無視して、総選挙直前に契約 に調印させたことは記憶に新しい。それから 3ヵ月後、そして連邦議会議員引退後 3週間で、シュレーダー氏はプーチン大統領からご褒美をいただいたというわけである。

 シュレーダー前首相は任期中一貫して、経済重視の偏った外交をしてきた。ロシアのほか、フランス、中国、トルコ などがお気に入りのようであったので、これらの国々からも高報酬のポジションを期待できるかもしれない。これほど大胆な「公私混同」 はシュレーダー氏らしいが、何とも後味が悪い。 元政治家が経済界でトップマネージャーや顧問になることはよくあるが、3週間前に引退したばかりの前独首相がプーチン露大統領の支配下にある露企業のトップマネージャーになるのであれば、「個人的問題」で は済まされまい。モラルの低さ、無神経さには呆れるばかりである。

 一般庶民はどんなに腹を立てても何のご褒美もいただけない。CIA疑惑もシュレーダー氏の監査役会会長就任も何のその、師走の町はクリスマス市で賑わっている。消費者の買い控えが懸念されていたが、とんでもない。小売業は消費者の購買力に満足しているようだ。メルケル新政権がスタートして、政治空白が終わったことが庶民にも少なからぬ希望を与えたのかもしれない。

 先日発表された世論調査結果によると、72%の人がメルケル首相の働きぶりに満足しており、満足していない人は10%に過ぎなかった。また、59%の人が「新政権は良いスタートを切った」と評価している。70%の人は「2005年は良い年だった」と総括しており、「悪い年だった」と回答した人は28%だった。

 今年も良いクリスマスを迎えられそうである。

2005年12月12日)

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