オバサンの独り言

 ミュンヘンにもようやく春が来た。透き通るように真っ青な空に太陽がサンサンと輝き出すと、もうビアガーデンの季節である。1リットルジョッキーの生ビールを片手にソーセージとブレーツェルを食べれば、どんな人でも陽気になる。生の躍動する新緑のビアガーデンは元気をくれる。

 ところで、ソーセージには色々な種類があるが、世界的に有名なソーセージといえば、やはりウインナーソーセージだろう。味はもとより、中辛のマスタードをたっぷりつけたウインナーをガブリと噛んだ時の、あのパリッとした歯触りがいい。

 ウインナーソーセージの発祥地はその名の通りオーストリアのウィーンだと思っている人が意外と多いのではないだろうか。少なくとも、私はそう思っていた。ところが、ウィーンには何種類ものソーセージがあるのに、ウインナーはない。ウィーンの肉屋さんで「ウインナー(Wiener)ください」と言っても通じない。目の前のウインナーを指差すと、「ああ、フランクフルター(Frankfurter)だね。」と言われる。そう、ウインナーソーセージの発祥地はドイツのフランクフルトなのである。

 では、どうしてフランクフルターがウインナーになったのか。話は19世紀初頭に遡る。フランクフルトで肉屋の修業をしたヨハン・ゲオルク・ラーナーさんがウィーンに住みついて肉屋を開業し、1805年にフランクフルターソーセージを改良(?)した「ウィーン風フランクフルターソーセージ(Wiener Frankfurter)」を売り出したのである。このウィーン風フランクフルターはウィーン子の間で人気を得た。フランツ・ヨゼフ皇帝も毎日食べていたそうだ。これがフランクフルターから派生したウインナーの由来である。

 当時、フランクフルトでは豚肉を扱う肉屋と牛肉を扱う肉屋が厳格に分かれていたため、肉屋は豚肉だけのソーセージか牛肉だけのソーセージを作っていた。ところが、ウィーンではこの規則がなかったので、ラーナーさんは豚肉に牛肉を混ぜた「ウィーン風フランクフルターソーセージ」を作ることができたのである。フランクフルターソーセージは世界中どこでもウインナーソーセージとして親しまれているが、オーストリアでは今でもフランクフルターと呼んでいる。ウィーンにはウインナーがない所以である。

 ゲーテの大好物だったフランクフルターソーセージは本来、ナイフとフォークで食べるのではなく、手で食べるものである。今では熱湯で温めて食べるが、元々は焼きソーセージだった。19世紀中頃から茹でて食べるようになったらしい。フランクフルターソーセージこそ、ファーストフードの元祖である。

 ゲーテがフランクフルターを食べながら「ファウスト」の構想を練っていたなんて想像しながらウインナーを食べるのは、なかなか高尚ではありませんか。

2005年4月5日)

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