オバサンの独り言

 ドイツの大学の財政難は周知の通りである。大学生は年々増えているが、受け入れ体制が相応に整備されていないために、学ぶ環境が悪化しており、講義室は満杯状態。学生たちは通路に座って講義を聴く始末だ。授業料徴収が避けられない状況になっている。

 先日、ミュンヘン大学で聴講する高齢者が増えている現状をレポートしたテレビ番組を見た。定年退職後または子育て後に大学で学ぶ高齢者が増えており、そうでなくても不足している講義室の席を彼らが占領しているのだという。たっぷり時間がある彼らは講義が始まる30分位前から前の方の「いい席」を陣取り、持参したコーヒーを飲み、ケーキを食べながら、まるでピクニックまがいの振る舞いだとか。いくつもの講義をとっている若者たちはぎりぎりに講義室に入ってくるので、 もう席がない。学科によっては半分から 3分の2が高齢者という講義もあるというから驚くばかり。確かに、テレビに映った講義室では、若者は高齢者たちの間にぽつん、ぽつんと疎らに座っており、多くの若者が通路に座ったり、立ったまま講義を聴いていた。

 教授が資料を配ろうとすると、前に陣取っている高齢者たちが突進して行って、資料を奪い合うので、資料 ももらえないと、ある若者が諦めきったような表情で話していた。また、ある若者は、知ったかぶりして延々と自論をぶち上げ、的の外れた質問をする高齢者たちにはうんざりだと呆れ顔だった。想像がつく光景である。

 ミュンヘン大学の場合、高齢者は1学期100ユーロを払えば、聴講生として受講できる(大学入学資格証明か大学卒業証明が必要)。正規の大学生ではないので、試験をして単位を取ることはできない。高齢者は数学や自然科学・技術系の学部には少なく、文系の学部に多いという。

 今後、中高年の聴講生がますます増えることが予想される。高齢化社会を迎え、勉強を趣味として楽しむことは老化防止にもなり、大いに歓迎すべきことである。いつまでも知的環境の中で生き生きと過ごしたいと意欲満々の元気な高齢者にふさわしい生涯学習の場が提供されなければならない。

 しかし、将来の社会を担う人材を養成すべく大学で、高齢者が若者の勉学の場を奪ってしまうのはいかがなものか。財政難の現状では、大学は 正規の大学生を優先すべきではないだろうか。カルチャーセンターではないのだから。

 私はテレビを見ながら、加速的に進展する高齢化への対応が追いつかない現実を意外なところで見せつけられる思いがした。 高齢化社会での共存には老いも若きも謙虚さが求められている。

2005年5月9日)

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