オバサンの独り言

 EU首脳会議は2007年〜2013年の中期財政計画で合意できず、決裂して終わった。内部対立の様子を見ていると、各国首脳は政治的策略と妥協で隠してきたEUの真の姿を露呈してしまったという感がある。シュレーダー独首相とシラク仏大統領は名指しでブレア英首相を非難し、決裂の責任を彼に押し付けた。ドイツのメディアもブレア英首相を悪者扱いしている。

 しかし、農業補助金などの共通農業政策が2004年度EU予算の約45%を占め、未来志向の研究開発・教育政策が約7,5%に過ぎないという、時代遅れの歪んだEU財政を見直すのであれば、英国のリベート(予算払戻金)の凍結ないし削減に応じてもよいとして、EU財政の抜本的改革を求めたブレア英首相の主張を私は支持したい。補助金漬けのEU財政の改革はEUの危機から生まれたチャンスだと思うからだ。

 農業補助金の最大の恩恵を受けているフランスが英国の譲歩条件に応じなかったことこそ、批判されるべきではないだろうか。国民一人当たり拠出額が最も高いオランダやリベートなしではEU最大の実質拠出額を払うことになる(リベートを含めるとドイツに次いで2位の)英国が東方拡大に伴うEU予算の歳出増加に鑑み、農業偏重のEU財政の見直しを求めるのは当然のことではないか。

 しかし、シュレーダー首相も議長国であるルクセンブルクのユンカー首相もシラク仏大統領側に立って、財政見直し要求に応じなかった。英国だけに責任を転嫁するのはお門違いだろう。最終的には英国だけでなく、フィンランド、オランダ、スウェーデン、スペインも中期財政計画に反対した。

 ドイツには、「労働者保護」のために多額の補助金を「過去の」産業に投入し、未来志向の新しい産業への投資を怠ったがために、産業構造改革に出遅れ、 高い失業率と厳しい財政難に陥ったノルドライン・ヴェストファーレン州の失敗例がある。この失政をEUレベルで繰り返してはならない。

 本来、ドイツの外交はバランスと協調の外交だった。EUでは、英国とフランスの間でうまくバランスを取りながら、仲裁者の役割を果たしてきた。ところが、元々 EUに懐疑的で、ユーロ導入に反対だったシュレーダー首相はこの7年間、一貫して日和見外交をしてきた。1998年に総選挙で勝つと、ブレア英首相寄りの外交を進めたが、再選が危ぶまれていた2002年の総選挙戦では急遽「イラク戦争反対」をスローガンにして再選に成功し、ブレア英首相寄りからシラク仏大統領寄りに鞍替えした。それ以降はフランスべったり外交に徹している。ブレア英首相がブッシュ米大統領の「プードル」であるならば、シュレーダー独首相はシラク仏大統領の「プードル」か? 今回のEU首脳会議では、本来ならば英仏の仲裁をしなければならないドイツが初めから仏寄りであるために、英仏の歩み寄りを引き出すことができなかったのである。

 シュレーダー首相のもう一つの大きな誤算はトルコのEU加盟問題だろう。シュレーダー首相がトルコのEU加盟を推進する背景には、経済的理由だけでなく、ドイツに住むトルコ人の多くが社会民主党ないし緑の党の支持者だという現実がある。シラク仏大統領とシュレーダー独首相のトルコ加盟推進がEU市民に大きな不安をもたらしたことがEU憲法批准の危機の一因であることを軽視することはできない。

 EU内のエゴの対立は今に始まったことではない。利害の対立にもかかわらず、25カ国が結束するためには、25カ国が共有できる欧州像が不可欠である。各国首脳はEU市民と共に欧州像を模索しなければならない。20世紀の「古い」EUから21世紀の「新しい」EUに脱皮するためには、新しい指導者が求められている。

2005年6月20日)

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