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連立与党、疾病保険改革妥協案で合意

 キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の党首は7月3日に疾病保険改革の基本方針で合意したが、党内だけでなく、野党、疾病保険金庫、経済界、労働組合などからも反対意見が続出し、激しい論争が繰り広げられていた。連立与党はようやく105日(木)に疾病保険改革妥協案で合意した。(20067月11日のニュースを参照)

 妥協案の要旨は次の通りである。

     保健基金の導入時期を20081月1日から20091月1日に延期する。1年延期することにより、30億ユーロを越える赤字の削減を義務付けられる疾病保険金庫に時間的猶予を与える。保健基金に納められる保険料の額は未定であるが、現在の平均保険料率14,2%を上回ることは確実である。

     20091月1日に疾病保険金庫間の新しい財政調整がスタートする。疾病金庫間の収入格差の100%が調整される(これまでは92%)。各疾病金庫は保健基金から被保険者一人当たり同額の保険料(一括保険料)を取得する。支出面でも同じ競争条件にするために、女性、高齢者、病人の被保険者が平均より多い疾病金庫は一括保険料に加えて割増料を取得する。それに対して、若者と健康な被保険者の多い疾病金庫は保健基金からの収入が割り引かれる。但し、治療費が平均を50%以上上回る5080の病気における支出格差だけが考慮される。

     民間保険会社は、法定疾病保険に相当する基本タリフを提供しなければならない。基本タリフは最高500ユーロ(法定疾病保険料の上限)とし、援助の必要な人の場合は最高250ユーロとする。この保険料も払えない人には国が最高125ユーロの補助金を支給する。基本タリフの保険料は加入開始年齢と性別により段階をつけることができる。民間保険会社の被保険者は、他の疾病保険会社に移る場合に、新しい基本タリフに割り当てられる養老引当金の一部を持参できる。但し、5年間の移行期間は、40歳以下の被保険者はその引当金を持参できない。

     保健基金が払う保険料で賄えない疾病金庫は、その被保険者から追加保険料を徴収しなければならない。但し、追加保険料は保険料算定限度の名目所得(3562,50ユーロ)の1%(月額35,63ユーロ)を上限とする(1%規定)。但し、この条件は、追加保険料が月額8ユーロを超えた場合に適用される(8ユーロ規定)。例えば、追加保険料が20ユーロの場合、所得が800ユーロ以下の者は8ユーロ払わなければならない。追加保険料を徴収する疾病金庫の被保険者は他の疾病金庫に移ることが可能である。

     2009年からは新しい財政調整が導入され、疾病金庫間の収入格差の100%が調整されるため、経過規定が適用される。裕福な州が貧しい州に払わなければならない金額を年間最高1億ユーロに制限する(州間の財源調整)。

 これ以外の事項は基本方針のままである。

 メルケル連邦首相は、「連立政権にとって重大な第一歩だ」と妥協案を高く評価している。また、ベックSPD党首は、「堅実な合意」として、これをベースに法案を作成することを明らかにした。与党3党の党首は、この妥協案を大連立政権が機能している証拠と見ている。

 しかし、野党と疾病保険金庫、経済団体はこの妥協案に反対している。自由民主党(FDP)のヴェスターヴェレ党首は、「延期ではなく、この計画経済的保健基金を葬らなければならない」と批判した。緑の党の党首は、「基金は死んだ。疾病保険改革も挫折した」と語った。経済団体は、競争の促進も疾病保険料の賃金からの切り離しも達成できないと批判している。

 CDU/CSUとSPDが疾病保険金庫への連邦補助金を現在の42億ユーロから15億ユーロに削減するという基本方針を取り消すことで合意に至らなかったことから、約7000万人の法定疾病保険被保険者は改革による負担の軽減よりも保険料率の引き上げだけを痛感することになりそうだ。

 連邦政府は1025日に疾病保険改革法案を閣議決定する予定で、連邦議会の第一読会も10月中に計画している。連邦参議院は来年1月に審議する。同法は20074月1日に発効し、20091月1日に保健基金がスタートする予定である。但し、同法案に対する反対が依然として根強く、政府の計画通りに法案が成立するかどうかは定かでない。

2006年10月16日)

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