オバサンの独り言

 

 連邦統計局によると、2005年に生まれた子供の数は686000人と、前年より2万人減少し、1946年以来の最低 となった。亡くなった人の数は生まれた子供の数を約144000人上回り、1972年以降自然減が続いている。

 ドイツ政府は少子化社会対策として、父母手当の導入を決定した。連邦議会がすでに法案を可決しており、来年から 支給される見通しである。女性の仕事と育児・家庭の両立を経済的に支援することを目的としているが、男性に育児休業取得を誘導して、父親の子育て参加を促進する試みでもある。

 1年間の経済的支援よりも保育サービスの整備を優先させるべきだという意見もあるが、まずは子供の誕生後1年間の具体的な支援策として評価したい。そして、父親の育児参加にどれだけの効果があるか、見守りたい。

 今後、働く女性が増え、女性の労働力率が上昇する ことが予想される。少子・高齢化社会では、女性の労働力がますます重要になる。当然のことながら、仕事をする女性が子供を産む選択のできる社会的環境の整備が必要になる。

 保育サービスの整備が遅れているドイツの課題は保育施設の拡充 にある。そして、母親と父親が子育てしやすい雇用環境の整備も欠かせない。これは企業の課題である。働く女性が負わされてきた仕事と育児・家庭の負担を男性と分担できる社会的環境作りが少子化対策のカギになると思われる。

 少子化社会対策が議論されているときに、ブレーメンでショッキングな事件が起こった。2歳半の男の子ケヴィンの死体が父親の住居の冷蔵庫の中で見つかったのである。検死 の結果、ケヴィンが20041月23日に生まれて以来、親の虐待を受けていたことが明らかになった。昨年11月の母親の死後、青少年局がケヴィンの後見を引き受けていた。

 青少年局の後見を受けていた子供が母親の変死後もヘロイン中毒の父親の元で暮らしていたことを私達は理解できない。しかも、この父親は変死した母親の殺害容疑で捜査中だった。ケヴィンは両親の暴力、麻薬中毒、アルコール中毒、そして管轄官庁と青少年局の無責任の犠牲になったのである。

 アフリカの砂漠で冒険旅行中に誘拐されたドイツ人観光客を救い出すために、 あるいは、危険地帯だから渡航しないようにという警告を無視して渡航し、誘拐されたドイツ人の生命を守るために、政府は莫大な身代金も辞さずに救出に全力を尽くす。ドイツ政府が外国で生命の危機にあるドイツ人を保護するのは当然の義務である。

 ドイツ国内に住むケヴィンは青少年局の後見を受けていた。国の保護下にあったのである。しかし、国は小さなケヴィンの命を守ってはくれなかった。彼の存在はすべての事情を熟知していた役所に黙殺されたのである。青少年局の予算不足、人員不足、官庁間の連携不足などの言い訳が並べ立てられる。何とも遣り切れない現実である。

 政治家が世界に誇る社会福祉国家ドイツで、当然の権利を受けられず、ケヴィンのように虐待されて死んでいく子供が後を絶たない。一つの命の価値に違いがあるのだろうか。

 最近、政治家は少子化のテーマに熱心である。どうしたら、もっと子供が増えるだろうかと施策を検討している。しかし、すでに生まれてきた子供を守る社会環境ができていないのであれば、本末転倒ではないか。どの子供も社会から落ちこぼれないように救済するネットワーク作りが早急に求められている。 一つ一つの命を尊ぶ社会を作ることが少子化社会対策の原点なのではないだろうか。

2006年10月16日)

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