オバサンの独り言

 

 バイエルンといえばビール、ビールといえばミュンヘンのオクトーバーフェスト(俗に言う「ビール祭り」)だ。今年の第174回オクトーバーフェストには16日間で620万人が訪れ、670万リットルのビールを飲み、104頭の雄牛を食べたという。なんとも豪快な祭りである。

  オクトーバーフェストはバイエルンとミュンヘンのトレードマークだ。ところが、そのバイエルン州の与党、キリスト教社会同盟(CSU)がこの「聖域」に触れる画期的な決定を下したのである。

  バイエルン州政府は来年1月1日に発効する予定の非喫煙者保護法案(州管轄の領域に適用される州法)を今年3月に閣議決定した。この法案では、飲食店における全面禁煙を原則とするが、飲食店の「密閉された奥の部屋」と仮設ビアホールにおける喫煙は認めるという例外規定が盛り込まれていた。オーバーバイエルン出身のシュトイバー前州首相にとって、仮設ビアホールにおける喫煙は絶対に守らなければならない「聖域」だったのだ。

  州議会での法案審議を控えて、与党 CSUは党内の採決をした。その際、ある議員が、「密閉された奥の部屋」のない小さな居酒屋では「店内を全面禁煙にするか、全面喫煙にするか」を店主に決定させるべきだとして、もう一つの例外規定を求めた。この発言が発端となって、長時間の論争の末、予期しなかった結論が出た。

  「公平」を建前に様々な例外規定を認めるよりも、一律に全面禁煙にする方が公平だという意見が大勢を占め、法案の例外規定を削除し、バイエルン州の飲食店と公共施設に完全なる全面禁煙を適用することになったのである。最終的には反対票は 4票だけだった。ここに、全国で最も厳しい非喫煙者保護法案が誕生したというわけである。

  この意外な決定の背景には、様々な政治的打算が働いていることは確実である。シュトイバー前州首相が退陣し、新しい州首相、内閣、党首になったバイエルン州では、すでに新しい時代が始まっている。

  しかし、どんな政治的打算があったとしても、非喫煙者保護の名に恥じない法案になったことは確かである。今回ばかりは野党の社会民主党も緑の党もメディアも予想外の結末に脱帽している。

  法案作成では、「公正」よりも「選挙」を念頭に例外規定を要求する政治家が多い。そんな中で、今回の決定は誠にスッキリした、実に公正な決定だと思う。

  しかし、そう思わない人たちもいる。オクトーバーフェストの仮設ビアホールを運用するビール会社は例外規定の削除に猛反対しており、抗議活動を始めるという。

 あの広いテントの中で、法律を無視してタバコを吸い始める酔っ払い客と酔っ払った非喫煙者との争いがあちこちで生じることが予想される。法律違反者をどう取り締まるのか。公正な法律を制定しても守れなければ意味がない。バイエルン州政府に課された課題は重い。

  ビールとタバコとオクトーバーフェスト。バイエルンの “Gemütlichkeit” も時代の変遷を無視することができなくなったようである。

2007年10月29日)

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