オバサンの独り言

 

 ドイツ基本法 6条 1項には、「婚姻及び家族は国家秩序の特別の保護を受ける」と定められている。基本法では家族の概念を定義した条項はないが、一般的には「婚姻関係にある夫婦と子供」という狭義の解釈がなされている。キリスト教に基づく価値観からも婚姻は不可侵の聖域であり、婚姻締結している夫婦と事実婚の夫婦が明確に区別されている。

 ところが、子供を最優先する扶養法改正により、家族が広義に解釈され、婚姻よりも優先されるようになる。婚姻と事実婚を分離するハードルが低くなった。これはドイツの保守的な家族制度にとって大きな方向転換である。

 ツィプリース連邦法務相が指摘しているように、女性の社会進出、男女機会均等、少子化、離婚率の上昇、婚姻における役割分担の変化、非嫡出子の法的地位の改善・・・と、社会は大きく変遷している。近年の連邦憲法裁判所の判決を見ても子供優先、法律上婚姻関係にない男女と非嫡出子の法的地位の改善が顕著である。家族制度も時代の変化に対応する時期に来たということだろう。

 「女性の社会進出、男女同権、機会均等・・・、そんなこと当たり前じゃないか」と誰もが口にするけれど、残念ながら建前と現実のギャップはいまだに大きい。

 父母手当導入、保育施設の拡充、扶養法改正など、法律上、政策上の具体的な環境作りがようやく始まったばかりである。そのための法律が成立するまでの激しい論争を見ていると、私達の意識改革が建前よりもずっと遅れていることを認識せざるを得ない。

 扶養法改正では、立法者は当事者の自己責任と経済的自立を求めている。婚姻に守られた主婦(主夫)の座はもはや安住の地ではなく、生活水準の保証でもなくなる。

 多くの女性は家庭のため、育児のために仕事を断念し、キャリアを犠牲にしてきた。ドイツ経済研究所(DIW)の資産分配調査結果によると、男性の資産は女性の資産よりも約40%多いという。今後、女性は将来負うことになるかもしれないリスクを十分に考慮した上で職業上の決定をしなければならない。その決断が自己責任になるからだ。

 立法者は子供を優先するために、女性の経済的自立を求めている。では、女性が経済的に自立できるように、公平な前提条件、つまり、家庭と仕事の両立の環境整備を立法者に求めたい。そして、家庭と仕事の両立においても男女同権、機会均等の原則を徹底して欲しいと思う。そうでなければ、女性が負け組になる危険性が大きい。

 主婦(主夫)になることも選択の自由である。但し、その選択の責任を夫婦両者が負うのでなければ公平ではあるまい。そうでなければ、主婦(主夫)の経済的自立は難しい。

 仕事と家庭の両立が男女公平に行われない限り、女性の社会進出と経済的自立は進んでも、出生率は低下し、少子化が進展するばかりだろう。

 立法者と行政者は仕事と家庭の両立の環境整備を、私達は意識改革を求められているのである。

2007年11月16日)

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