オバサンの独り言

 

 ドイツ人の知り合いが東京のビジネスホテルに宿泊した。駅前で便利、手ごろな料金、最上階には東京の夜景を楽しめる大浴場と、大変満足していた。ところが、椅子にかけておいたポロシャツがなくなっていたという。フロントの若い従業員に話したが、何の連絡もないと困っていた。

 日本の名誉にかけて・・・と勇んでホテルに駆けつけると、お揃いのアロハシャツを着た年配の男性が数人、フロントで仕事をしていた。普通、フロントには制服を着た若い女性がニコニコと微笑みながら接客しているというイメージがあるので、見慣れない風景にちょっと戸惑った。

 深夜は第二の就職をした定年退職者が働いているらしい。愛嬌はないが、見るからに実直そうな60代の男性たちである。事情を話すと、メモ用紙にポロシャツの特徴や連絡先を詳しく書きとめ(ポロシャツの絵まで描いていた!)、プロらしい対応だった。知人は若い従業員とは違う仕事ぶりに感心していた。

 翌々日、ポロシャツが見つかったとの連絡があった。シーツと一緒に洗濯に回されていたらしく、ちゃんとクリーニングにかけたポロシャツを手渡されたという。知人の「日本のイメージ」がさらにアップしたのは言うまでもない。

 団塊の世代が定年退職した後の専門者不足が危惧されている。経済的理由からだけでなく、心身の健康のためにも働き続けたいと考えている人は多いと思う。最近は敬老の日に招待される高齢者は75歳以上だとか。少子・高齢化社会では、60代70代の「若い高齢者」の経験と知識、技術をいかに活用するかが大きな課題となる。

 発想の転換をすれば、「若い高齢者」が活躍できる場は多いはずだ。高齢化社会の活性化には高齢者の活性化が不可欠である。前世紀の労働協約に縛られることなく、柔軟な高齢者雇用市場を創出することが後継者育成に寄与し、専門者不足を緩和することになるのではないだろうか。

 少なくなる実質年金、社会保険料引き上げ、自己負担の増大・・・、年金生活は厳しくなるばかりである。社会保険制度も財政難に苦しんでいる。意欲のある高齢者の活用は本人にとっても社会にとってもプラスになる。高齢者が活躍できる場を創出することは重要な経済・雇用政策であり、社会政策である。

 年金といえば、年金問題と「政治とカネ」の問題で追い討ちをかけられた安倍首相が辞任した。ちょうど1年前、52歳の若い内閣総理大臣は国民の大きな期待と高い支持率を受けて、颯爽と表舞台に立ったが、その舞台から引き摺り下ろされるように立ち去る姿は無惨だった。

 「若すぎた」という声が聞かれるが、そうだろうか。欧州では企業のトップだけでなく、政界の指導者の世代交代も進んでいる。ドイツやフランス、英国など欧州主要国の首相や大統領は安倍氏と同年代である。若い指導者をブレーンが重厚に支えている。

 経済界でも政界でも引き時がある。しかし、引退後もその豊富な経験と知識を後継者のために、社会のために活用することは可能である。表舞台ではなく、舞台裏で若い後継者を支えるのが賢い高齢者の社会貢献だろう。

 安倍氏の周りには賢いブレーンがいなかったのか、安倍氏にブレーンの助言を聞く耳がなかったのか、首相としての資質と能力に欠けていたのか・・・。世界的に同年代の指導者が活躍しているのだから、「若すぎた」は理由になるまい。

 日本の若い政治家が安倍氏の失敗から学び、再挑戦することを期待したい。旧体制への逆戻りだけは御免蒙りたいものである。

2007年9月26日)

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