オバサンの独り言

 

 謝肉祭(カーニバル)が終わり、四旬節に入った。復活祭前の40日間断食をすることから、四旬節はドイツ語で Fastenzeit (断食期間)という。

 この期間に飲むビールが Fastenbier (ファステン(断食)ビール!)だ。麦汁エキス濃度が16%以上(アルコール分 6%以上)の強いビール(Starkbier)で、様々なミネラル、ビタミンB 1、B 2、B 6、たんぱく質、炭水化物などの栄養がたっぷり含まれている。「液体は断食を破らない」ことから、断食する修道士が唯一許される飲食物である。

 ドイツでは伝統的に修道院がビールを醸造していた。つつましい食事を補う栄養豊富な飲み物として、修道士はこの聖なる(?)自然の恵みをありがたく頂戴していたのである。しかし、ビールが修道士だけでなく、一般市民にも美味しかったのはいうまでもない。聖なるビール醸造はいつしか修道院のビジネスになった。断食をしない一般市民も四旬節にはファステンビールを飲むのがバイエルンの習慣になっている。

 「修道士とファステンビール」は実にバイエルンらしいと思いきや、ファステンビールが属するボックビール(Bockbier)の発祥地はバイエルンではないのだそうだ。何と、 発祥地は北ドイツ、ハノーバー近くのアインベックで、そこで醸造されたアインベッカー・ビールが最初のボックビールである。すでに1351年に醸造されていたという記録がある。

 ちなみに、ボックビールないしシュタルクビール(Starkbier)はビールの種類で、麦汁エキス濃度が16%以上(アルコール分約 7%)でなければならない。ファステンビールは四旬節にだけ飲む期間限定ボックビールである。ボックビールの生産量はビール全体の1%弱に過ぎないが、特別なビールとして愛飲されている。

 話は戻って、当時のバイエルンの公爵はこのアインベッカー・ビールにゾッコン惚れ込んで輸入(!)していたのだが、なんせお金がかかる。そこで、ヴィルヘルム 5世はミュンヘンでアインベッカー・ビールを醸造させようと、かの有名なホーフブロイハウス(宮廷ビール醸造所)を造った(完成1591年)。ホーフブロイハウスはアインベックの醸造マイスターをスカウトして、1614年にアインベッ ク風ビールの醸造を開始している。このアインベックビールがいつの間にかボックビールと呼ばれるようになったのである。今では、ボックビールの大半はバイエルンで醸造されている。

 ビールを飲むと太るといわれているが、専門家によれば、それは迷信なのだとか。1リットルのビールは平均で400キロカロリーなのに対して、フルーツジュースは500キロカロリー、牛乳は約660キロカロリー、ドイツの赤ワインは約700キロカロリーと、ビールよりもカロリーが高い。

 ビール腹(Bierbauch)というが、お腹が出るのはビールそのものに原因があるのではないらしい。但し、ビールは食欲をそそる。脂肪の多いこってりした食事に はビールが合う。ご存知のように、シュヴァインスハクセ(豚のすね肉)や焼きソーセージを食べる時にビールは欠かせない。ビールが食欲をそそり、脂っこい食事が飲酒量を促すという相乗効果の結果がビール腹ということだろう。

 連邦政府が発表した「ドイツ人の食生活」調査結果によると、ドイツでは男性の66%、女性の51%が肥満(BMI が 25以上)だという。しかもドイツ人の20%は脂肪過多症(BMI が 30以上)である。年を取るにつれて肥満化する傾向も顕著で、7080歳の男性の84%、女性の74%が肥満だ。その反面、1417歳の女性の10%はやせ過ぎだった。

 教育水準が高くなると、肥満の割合が低下し、所得が高くなると、BMI が低下するという調査結果から、社会的格差と肥満の関係が指摘されている。また、正しい食生活の知識が不足していることも肥満化の原因であるという。

 ビールは消化が良く、栄養豊富な健康飲料であるが、アルコールには注意しなければならないと醸造専門家はいう。健康なものでも節度を過ぎれば不健康 というわけだ。医学者は、男性は 1日半リットル、女性は 4分の 1リットルまでにするよう呼びかけている。

 濃い黄金色のコクのあるファステンビールは味わうビールである。のどの渇きを癒すため、酔うためのビールではない。 じっくりとかみ締めながら飲む断食のビールである。一度お試しあれ。

2008年2月11日)

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