オバサンの独り言

 

 バイエルン州では今年1月1日から全国で最も厳しい非喫煙者保護法(禁煙法)が適用されている。公共施設と飲食店における全面禁煙を規定する禁煙法には、「密閉された奥の部屋」と仮設ビアホールにおける喫煙を認めるという例外規定がない。

 禁煙法のお陰で、飲食店内の空気がきれいになった。衣類がタバコ臭くならないし、タバコの煙で目や喉や頭が痛くなることもない。タバコを吸わない人や子供連れの家族にはレストランやカフェが実に快適になった。

 世論調査によると、全面禁煙はおおむね守られており、市民の広い支持を受けている。禁煙への移行はスムーズに実施されているようだ。ある世論調査結果では、回答者の71%が禁煙に賛成、28%が反対だった。喫煙者の半分も賛成している。禁煙法発効後、吸うタバコの本数が少なくなった人は19%で、4%はタバコを止めている。喫煙者の25%は飲み屋ではなく、家で友人と飲むようになったという。

 しかし、喫煙者が主な客層である小さな酒場にとって全面禁煙は死活問題だ。法の抜け穴を見つけて生き残りを図っている。喫煙が認められるプライベートの会員制クラブに切り替えているのである。年会費は象徴的な金額(例えば1ユーロ)、誰でもすぐに会員になれる。この会員制喫煙者クラブが増えている。

 喫煙者クラブが厳密に合法かどうかは明確でないが、目を瞑っている地方自治体が多い。法律違反行為に対する処罰の執行と取締りをするのは自治体であるが、法律が発効したばかりなので、様子を伺っているというのが現状だ。

 春になると、あちこちでお祭りが始まる。仮設ビアホールの季節到来だ。仮設ビアホール運用事業者や小さな飲み屋の団体は選挙でのCSUボイコットを叫んでいる。それを知ってか知らずか、バイエルン州地方選挙で苦戦したキリスト教社会同盟(CSU)は、2008年は仮設ビアホールでの喫煙を認めるという法律改正を決定した。

 勿論、仮設ビアホールでの喫煙者と非喫煙者の争いを取り締まる安全対策の準備期間が必要だというのが1年猶予の正式な理由である。 法律制定前には気づかなかったらしい。オクトーバーフェスト期間中に行われる州議会選挙と今回の法律改正は無関係というが・・・。

 フーバーCSU党首が財務相時代のミスマネジメントへの批判をかわすために、悪い結果に終わった地方選の原因を厳しい禁煙法に擦り付けたというのが本音だろう。画期的な非喫煙者保護法と称えられたバイエル ン州禁煙法は発効後 3ヶ月も経たないうちに改正となった。票集めのためなら形振り構わぬ、責任転嫁も辞さない政治家たちがなんと多いことか。

 選挙直後に選挙公約を平気で破る政治家もいる。ヘッセン州議会選挙で 3511票差でキリスト教民主同盟(CDU:得票率 36,8%、42議席)に敗れた社会民主党(SPD: 36,7%、42議席)のヘッセン州 SPD党首イプシランティ氏は、左派新党とは絶対に協力しないことを選挙公約にしていたが、 「州首相選挙で左派新党の支持を受けて州首相になる」と心変わりしたのである。

 自分の政治的信条に忠実に選挙公約を守るとして、「左派新党の支持を受けるのならば 、イプシランティ氏に投票しない」と勇気を持って発表した SPD議員が党内で激しく非難され、脅迫やいじめを受ける事態になったのは常軌を逸する SPDの暴走である。

 旧西独では左派新党とは絶対に組まないことが SPDの公約 だ。ベック SPD党首も何度も断言していた。ところが、イプシランティ氏をヘッセン州首相にするために、「左派新党と協力するか否かの決定は各州の SPDに任せる 」と公約を変えたのである。それまで左派新党との協力を公然と拒否していた幹部会も急遽ベック党首の主張を了承する始末。今や SPDとベック党首の支持率は下降の一途を辿っている。

 口先ではきれいごとを言っても、いざとなると信条もモラルも捨てて同調する政治家たち。信念のない日和見主義者たちの政治を見せつけられると、国民の政治不信は深まるばかりである。

今年 9月28日のバイエルン州議会選挙 と来年の総選挙で、国民はどんな回答を示すのだろうか。

2008年3月19日)

戻る