オバサンの独り言

 

 ロンドン、パリ、サンフランシスコの北京五輪聖火リレーは五輪開催国と主催者側の猿芝居に終わった。直前になって密かにルートを変更したり、短縮したり、バスで運んだり、聖火を消したり点けたり、終了式典を中止したり・・・。水上スキーや船まで登場。チベット問題に抗議する人たちと主催者側のイタチごっこはまるで 007の映画のようだった。

 中国人の怖そうな警備隊員と大勢の現地警察官がリレー走者を厳重に囲んでいっしょに走る様子は異様というか、滑稽というか・・・。こんな聖火リレーを「成功した」とコメントする中国政府の厚顔無恥。オリンピックの象徴である聖火が開催国と IOC の恥曝しの象徴となって世界を駆け巡っている。知らぬは言論統制下の中国市民だけか。

 中国政府のチベット抑圧に対する抗議行動が世界的に広まっている。欧州議会は EU加盟国首脳に北京五輪開会式ボイコットの検討を求める決議案を採択した。ドイツ連邦議会は左派新党を除く全政党がダライ・ラマ14世と対話するよう中国政府に求める声明を出した。ドイツの首脳は開会式に出席しない。

 中国政府がダライ・ラマ14世との対話と平和的解決を拒否し続け、人権を無視した弾圧政策を続ける限り、今後も開会式に参加しない首脳が増えることだろう。

 かつての共産圏で旧ソ連の弾圧に苦しんだ東欧諸国やバルト諸国の首脳が正式に開会式ボイコットを表明しているのは自明の理である。当時、西欧は助けを求める小国を見殺しにした。彼らはその苦い経験を忘れない。西欧に対する不信感は根強い。

 そもそも聖火リレーが導入されたのは1936年のベルリンオリンピック大会である。当時、ナチスのユダヤ人差別政策に対する強い非難があったにもかかわらず、国際オリンピック委員会(IOC)は内政干渉しないことを理由に、ナチスのユダヤ人迫害に目を瞑ってベルリン大会を開催させた。

 そして、ヒトラーはオリンピックを国威発揚のプロパガンダに利用したのである。聖火リレーはまさにその象徴だった。歴史はくり返す。ドイツの首脳が欠席するのは当然だろう。

 オリンピック憲章の根本原則にはご尤もな理念が掲げられている。「オリンピズムの目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある」という。「オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行われるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある」という。

 しかし、このオリンピック精神、スポーツ精神とは相反して、オリンピックが誘致やスポンサーを巡る利権の絡み合った大会であることも公然たる事実である。政治と経済抜きの純粋なるスポーツ大会ではない。五輪開催地を中国にする決定にも中国の五輪政策にも政治色と経済的利害関係は隠せない。

 最初から中国の人権問題は大きな懸念材料だった。建前上は、IOCは五輪開催というチャンスを与えることにより、人権問題の改善を求めたはずである。しかし、チベット自治区における抗議行動と騒乱に対する中国政府の武力鎮圧は国際社会の期待を完全に無視した行為だった。中国当局の武力弾圧を目の当たりにして、「言論の自由」、「報道の自由」、「人権の擁護」を尊重する国、市民は抗議を表明 しなければならない。それこそがオリンピック精神なのではないだろうか。

 内容の伴わない表面だけの「調和」と「平和」の巨大なプロパガンダショ ーは始まる前から失敗に終わった。中国はお金と権力では買えないものがあることを知るべきだ。IOCも国際社会のモラルを軽視してはならない。

 私達はオリンピック精神に則って人権擁護のための抗議を続けなければならない。内政干渉という隠れ蓑に屈してはならない。ベルリン大会の過ちをくり返してはならないのだ。

2008年4月15日)

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