オバサンの独り言

 

  科学技術が目覚ましく進歩し、生活水準も教育水準も向上して、民主化された社会は急速に変わっているように思われるが、長い伝統と文化に育まれてきた社会意識はもどかしいほどにゆっくりとしか変わらないようだ。

   ドイツ経済研究所(DIW)の新しい調査では、「女性は男性より少ない賃金に満足しているだけでなく、男性より少ない賃金を正当だと考えている」という現状が明らかになった。この傾向はすべての所得層、職種に見られる。

   同じ資格を持つ男女を比較した場合、女性の賃金は男性よりも約20%少ないだけでなく、女性が正当と評価する(希望)賃金も男性が実際にもらっている賃金より少ないという。女性の仕事の価値は男性の仕事より低いという偏見が未だに根強い。

   管理職に占める女性の割合は27%で停滞。管理職の女性の報酬は男性より28%少ない。ドイツ大手企業の取締役会では男性の割合が97%以上・・・。男女機会均等が議論されるようになって久しいが、あまり改善していない現状に専門家も驚いているようだ。

   ある研究者チームが行った実験では、「女性は交渉において、交渉枠組みが不透明、不確実で、客観的な評価基準がない場合には男性に劣る」という結果が出ている。自分の要求を押し通すことでも男性の方が勝っていた。

   「女性は生まれながらにして控え目、無私無欲なのではなく、社会が、特に男性がそれを女性に期待しているのだ」と研究者は指摘する。男性との競争への遠慮、ためらいは個人的要因だけでなく、教育によって身についた、社会が女性に期待している役割行動に起因しているというのだ。

   ある調査では、女性の方がパートナーの男性より収入が多く、地位も高い場合でも女性の方がパートナーの男性より家事をしているという現実が明らかになった。性的要素よりも社会的・文化的要素の方が男女の行動の相違の決定的要因になっているという。

   「男女平等は自明の理」と思われている21世紀の現在も私達は性別役割分担という過去を引きずっているのである。社会と文化に深く根付いている意識の改革にはまだまだ時間と忍耐が必要だということか・・・。

   ドイツ経済研究所の専門家は、男女機会均等改善のために賃金体系を透明化して、男女の賃金格差を認識できるようにすることを提案している。また、男性が企業のトップをほぼ独占していることが長い勤務時間と仕事優先の職場環境を作っており、仕事と家庭の両立を困難にしていると指摘している。

   企業は女性の控え目な要求を「自業自得」として利用するのではなく、男女機会不均等を是正していかなければ、少子化社会で優秀な人材を確保することはできないだろう。

   これまで女性にはオプションがあった。結婚して主婦になる。夫が家族を養っているから、妻の収入と昇進は二の次・・・、仕事より家庭優先・・・。

   男性にはオプションがなかった。常に、家族を養わなければならないというプレッシャーがあった。主婦も共働きの妻もキャリアウーマンも家事と育児をしてくれたから、男性は仕事優先で昇進してこられたのだ。

   しかし、状況は変わりつつある。離婚、一人親、失業が増える社会では、女性はオプションに甘えていられなくなる。社会が女性の経済的自立を要求しているからだ。

   若い世代では、父親が積極的に育児に参加するようになってきた。今後、仕事も家計も育児も平等に分担しようと試みる共働きカップルが増えてくることだろう。この変化が社会の意識改革を促してくれることを願いたい。

   しかし、企業の自主的改善だけには頼れない。政治が積極的かつ具体的な男女機会均等促進政策を実施して、企業を指導しない限り、大きな改善は期待できないだろう。例えば、女性割当比率の導入も大いに検討する価値があるのではないか。

   女性も男女機会均等の代償を覚悟しなければならない。何事もギブ・アンド・テイクなのである。

2010年7月22日)

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