オバサンの独り言

 

   企業における女性の比率を割り当てるクオータ制を巡る論争は意外な方向へ発展した。

    CDU/SPD連立政権の3州がまさかと思われる鞍替えをし、連邦参議院がクオータ制導入法案を可決したからである。

    これまで、党派を超えた女性議員たちと野党がクオータ制の法制化を求めてきたが、与党は反対していた。連立を組む自由民主党(FDP)とキリスト教社会同盟(CSU)が原則的に反対。キリスト教民主同盟(CDU)も一部の女性議員(フォン・デア・ライエン連邦労働・社会相を中心とする約40人)を除いて反対している。

    シュレーダー連邦家庭相とメルケル連邦首相は企業が任意に比率を決定する「フレックス・クオータ制」を支持しているが、FDPが如何なるクオータ制にも反対しているため、今期中の法案提出はないと見られていた。

    ところが、連邦参議院が法案を可決したため、連邦議会はこれを審議しなければならなくなったのだ。連邦議会で可決させるには与党から最低21人の賛成票が必要となる。

    クオータ制導入を主張するCDU女性議員は党の拘束をなくして自由意思に基づいて投票できるようにすることをCDU首脳部に求めているが、首脳部が圧力をかけることは確実だ。ただ、党の結束を理由に強制的に賛成を阻止することは来年秋の総選挙に悪影響を及ぼしかねない。

    メルケル首相はこのジレンマをどう解決するのか。

    現状では与党内の合意は無理なので、与党が独自の法案を提出する可能性は低い。そこで、連邦議会に回ってきた法案をすぐに委員会にお蔵入りさせて、採決しないという手を使うのではないかと見られている。そうすれば、法案は今期末に自動的に没になる。今のところ、連邦議会で法案が可決される可能性は限りなくゼロに近いというわけだ。

    来年1月のニーダーザクセン州の州議会選挙で現在のCDU/FDP連立からSPD/緑の党連立に政権が交代すれば、連邦参議院でSPD/緑の党/左派新党が過半数を占め、連邦政府のすべての法案をブロックできるようになるらしい。

    来年秋の総選挙に向けてメルケル首相の指導力が試されているわけだが、政治の流れはCDU/SPD大連立政権に向かっているように思われる。多くの政策をFDPCSUにブロックされてきたメルケル首相があと1年間、どう舵取りするのか見守りたい。

    連邦参議院が可決した法案では、クオータ制の対象は上場企業の監査役会だけで、取締役会には適用されない。比率も2018年から最低20%、2023年から最低40%に段階的に引き上げられる、穏当な移行案である。

    だが、ドイツにしては大きな前進だ。現政権ではFDPが阻止しても、FDPが政権から退けばクオータ制導入の可能性は高い。遅かれ早かれ、クオータ制はやって来るだろう。長年、「自主的な任意努力」というチャンスを活かさなかった企業は、政治家が今度こそ本気であることを思い知るべきだ。

    公共施設や飲食店における全面禁煙の法制化の時もそうだったが、ひとたび法律ができると、それまでの懸念が嘘のように、新しい状況が「当然」になる。クオータ制を導入したノルウェーでも当初は批判されていたが、ちゃんと機能しているようだ。

    この世の中、女と男がほぼ同数だ。今では大卒者でもほぼ同数になった。能力、資格に差はない。あとは女性と男性が仕事と家庭を両立できる職場環境と家庭環境を整備することが高度化した少子高齢化社会の課題だ。

    国も法制化する以上、仕事と家庭を両立できる社会作りに本腰を入れなければならない。そして、経済界だけでなく、政治におけるクオータ制導入にも積極的に取り組むべきだ。

    ひとたびクオータ制が導入されれば、次は取締役会に、管理職に・・・と適用範囲が広がっていくことだろう。企業は覚悟して人材養成と環境整備に努力してほしい。

    企業の皆さん、有能な女性はたくさんいますからご心配なく!

 2012年9月25日)

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