オバサンの独り言

 

   「ドイツの成人の6人に1人の読解力は10歳児程度」という見出しには驚いた。

    何事かと思って読んでみると、経済協力開発機構(OECD)が24カ国の1665歳の男女を対象に初めて行なった「国際成人力調査(PIAAC)」の結果だった。15歳の生徒を対象とする「国際学習到達度調査(PISA)」の成人版だという。

    ドイツは「読解力」で15位、「数的思考力」は12位、「ITを活用した問題解決能力」は8位とOECD平均並みだったのに対して、日本は「読解力」と「数的思考力」で1位、「ITを活用した問題解決能力」で10位だった。日本の高い教育水準を誇りに思う。

    日本の新聞報道によると、「読解力」と「数的思考力」では、「レベル1未満〜5レベル」の6段階のうち、日本は3と4レベルの割合が最大で、レベル1未満も最小、上位と下位の差も最小だったという。

    日本は職業や学歴による差が小さく、中高年層まで高い能力を示した。なんと、中卒者の読解力は高卒者のOECD平均とほぼ同じだった。日本の中卒者の読解力はドイツの高卒者より上だったというのだから驚く。文部科学省は、「戦後の義務教育と企業の社員教育の成果。学校教育の高い水準を裏付けた」と分析しているという。

    戦後日本の教育制度は学歴偏重、過剰な受験戦争、詰め込み教育といった様々な問題ももたらしたが、確実に国民の基礎学力を向上させた。日本の復興の土台には高い教育水準があったのである。

    しかし、1624歳の年齢層では、日本の「読解力」は1位だが、「数的思考力」は3位、「ITを活用した問題解決能力」(レベル1未満〜3の4段階)のレベル2と3の割合は14位でOECD平均も下回ったという。PISAにおけるトップクラスからの脱落、ゆとり教育の弊害がすでに反映しているのだろうか。

    一方、ドイツでは2001年のPISAショック以来、学校制度が改革されてきた。

    ドイツの学校制度は10歳前後(小学校4年生)で大学進学コースか職業コースの進路が決まってしまう厳格な縦割り制度で、横の交流がほとんどなかった。

    世界的に有名な職業教育制度(マイスター制度)が高く評価されていたので、成績が良くても進学コースへ進まずに10年生終了後に職業訓練を受ける若者が多かった。「職人にギムナジウムや大学は無用」、「職人の子どもは職人になる」という考え方が根強かったのである。従って、大卒者が少なかった。

    しかし、PISAショック以来の学校制度改革とEUの大学制度改革により、職業教育コースからも大学へ進学できる道が開かれ、大学進学コースへ進む子供も多くなった。大学入学者が年々増加している。

    ドイツ人が頑なに守ってきた伝統的な学校制度と職業教育制度もEU内の調和化とグローバル化を余儀なくされてきたのである。

    今回のPISA成人版PIAACでは、ドイツは日本とは対照的に、職業や学歴による差が大きく、上位と下位の差も大きかった。

    「読解力」では、親が高校卒業資格も職業教育修了資格も持っていない人は少なくともどちらか一方の親が大卒ないしマイスターである人よりも平均で54ポイントも低かった。親の職業や学歴による差がドイツよりも大きかったのは米国だけ。ドイツ特有の学校制度の影響だろう。

    他の参加国同様にドイツでも若い成人が中高年者より成績が良かった。2534歳の年齢層が最も良い成績を示し、最も悪かったのは5565歳。例えば、「読解力」のレベル3以上は5565歳が約30%、1634歳は約60%だった。

    日本では中高年者が頑張っているが、ドイツでは16歳〜34歳の若い成人が頑張っているようだ。連邦教育・研究省は、「PISAショック以降の教育予算の増加と学校制度改革の成果」と見ている。

    教育における機会均等と社会全体の基礎学力の向上がドイツの重要課題である。 しかし、ギムナジウムと大学の卒業者を増やすために資格のレベルを低くする「質より量」の政策を進めれば、いつかその付けが回ってくる。優秀な人材の育成も強化するバランスのとれた政策が資源の乏しいドイツには不可欠だと思う。

    ところで、成人の一人として、私の課題は何かというと、心身ともに健全な高齢者を目指して、ラジオ体操だけでなく頭の体操にも励み、日本の教育制度のお蔭で養われた能力の維持に努めることなのである。

 2013年10月23日)

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