オバサンの独り言

 

   近年、ドイツの高校卒業(大学入学)資格試験「アビトゥーア」の成績が良くなっており、以前は稀だった最高点(1,0)を取る人が急増しているという(2014年7月17日のニュース参照)。ギムナジウムに進学する生徒も大学進学者も増加傾向にある。

    ドイツの若者は急に賢くなったのだろうか。OECDの国際学習到達度調査(PISA)ショックを受けて、短期間に教育制度が改善したのだろうか。 

    ドイツでは教育と学術は州の高権に属し、州の所轄である。従って、学校も大学も州独自の教育政策に基づいて運営される。

    私が住むバイエルン州のアビトゥーアは昔から州統一試験であったが、学校単位で実施する分散型アビトゥーアの州が多かった。しかし、2005年以降、州統一試験を導入する州が増え、今ではラインランド・プファルツ州以外は州統一試験を実施している。

    ギムナジウムの教員を退職したばかりの知人からショッキングな話を聞いた。彼は北西部の州に住んでいる。

    「ある地元有力者の子供が落第しそうなので、合格点をあげるように」などと、校長が担当教員に指示することがあるのだそうだ。事前に試験問題を一緒に解いて教えるように校長が教員に指示することさえあったとか。

    どんどん出てくる裏話に私は自分の耳を疑った。ドイツでもそんなことがあり得るのか・・・。

    知人によると、決して珍しいことではないらしい。さすがに、州統一試験になってからは事前に試験問題を教えることは難しくなったと思うが・・・。ちなみに、知人が働いていた学校は普通の公立のギムナジウムである。

    メディアの報道によると、PISAショック以来、「採点を甘くするように」とか、「落第させないように」という上からの圧力があるらしい。

    専門家もアビトゥーアの成績が良くなった要因として、試験の難易度と評価基準の低下を指摘している。

    ドイツの大学進学率が他の先進国より低いこと、大学中途退学率が高いこと、落第が多いことなどに対してOECDの批判を受けているドイツの政治家は他の先進国並みにすべく、「質より量」をモットーに質のハードルを下げている。ドイツの若者が急に賢くなったわけではない。

    「ドイツの大学は、入るのはやさしいが、出るのはむずかしい」とよく言われたものだ。それがドイツの大学のレベルの高さを示していた。

    しかし、大学においてさえも「中途退学者を少なくするために、採点を甘くして卒業させるように」という上からの圧力があるという。自分が学びたい講義を自由に選択して時間に囚われずに勉強するというドイツ伝統の大学の環境は3年間で学士号をとらなければならない詰め込み教育になってしまったようだ。

    ギムナジウムを卒業しなくても大学に進学できる道が開かれるようになった。大学進学者の急増で、大学の受け入れ態勢の不備が表面化している。博士号のインフレ化が進む中、専門単科大学(Fachhochschule)でも博士号を取れるようにしようという動きもある。

    「特権階級」だったAkademiker/Akademikerin(大卒者)の「平民化」は健全な発展であるが、まだ多くの課題が残されている。大学の門戸が開かれることは喜ばしいが、質の低下という大きな犠牲は避けたいものである。近視眼的な教育政策は必ず将来にその付けが回ってくる。

    教育制度の分野でもEU化、グローバル化が進んでおり、ドイツの伝統的な学校制度と職業教育制度、大学制度が大きな転機を迎えている。

    グローバル化の流れの中で、ドイツは伝統的な「ドイツ的なもの」を維持できるのだろうか。

    今、ドイツ人は模索している。

 2014年10月14日)

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