オバサンの独り言

 

  フランスの連続襲撃テロ事件は世界中に大きな衝撃を与えた。

    ドイツでは、この事件の前から欧州のイスラム化を懸念する市民の団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人(Pegida)」のデモがドレスデンを中心に広がっていたが、この事件を契機に反イスラム集会とそれに抗議する集会が全国各地で開かれるようになった。イスラム化を巡る議論の背景には移民問題がある。

    ドイツは日本同様に少子・高齢化が進展しており、政府は滞在法を緩和して労働力、特に専門職者の確保に努めている。

    ケルン大学の経済学者は、2060年にはドイツ人の半分以上が51歳以上になり、就業人口が今の5000万人から3600万人に縮小すると推定している。移民なしにはドイツの人口が急速に減少するのは確実なようだ。

    移民政策と好調なドイツ経済のお陰で、移民が増えている。連邦内務大臣が発表した2013年度移民報告書によると、移入民が13%増、移出民が12%増で、移入民が移出民より428607人多かった。移入民の67,4%がEU市民で、専門職者が多い。最近はシリアやイラク、アフガニスタン、アフリカからの難民が急増している。

    一方、移民統合は極めて難しい政策である。文化、宗教の違いが大きな障害になる。低所得層の移民が多い地区は孤立しやすく、ドイツ語も満足に話せない人が多い。学校から落ちこぼれて定職につけない若者が犯罪の道に入っていく。特にイスラム系移民とドイツ人の間の溝は依然として深い。お互いに不信感と反感を抱いている。

    ドイツには330万人〜430万人のイスラム教徒が住んでいると推定されている。これは人口全体の約4%〜5%に相当する。そのうちの100万人〜180万人がドイツ国籍を取得しているという。

    しかし、統計的な数値と市民が感じる数値は違う。日常生活の中で、電車でもスーパーでも路上でもいつもイスラム系移民を見ているから、「多い」と感じるのである。だから、極右派やマスコミの煽りで市民の不安が膨らんでいく。

    全く普通の一般市民がイスラム化を懸念してペギーダデモに参加するようになっていることが今のドイツ人の不安を象徴しているといえよう。政府の難民・移民政策に対する一般市民の不満が反イスラム運動の動機になっているのだろう。 

    それに対して、イスラム系の若者たちは社会で不当に扱われていると感じ、過激な行動に走っている。まさに悪循環である。

    どの宗教にも暗い過去がある。しかし、少なくとも先進工業国では宗教の自由と言論の自由が法律で保障され、様々な宗教が共存している。もちろん、揉め事はあるが・・・。

    イスラム過激派と一般のイスラム教徒を同一視してはいけないことに疑問の余地はない。ただ、イスラム教徒自身も被害者意識を持つだけでなく、イスラム過激派問題と真摯に向き合わなければならないと思う。21世紀の人間が宗教をどう実践すべきなのかを反省する時期に来ているのではないだろうか。

    多文化、多宗教が共存できる社会は双方向の寛容と相互理解なしには成り立たない。そのためには大衆の啓蒙と教育が不可欠である。移民統合には忍耐強く取り組まなければならない。

    日本人には欧州における移民や宗教の問題をなかなか理解できないと思う。しかし、少子・高齢化社会に入った日本が外国人労働力を必要とする時代が近い将来に必ずやってくると思われる。ロボットだけでは解決できない。今欧州が直面している移民問題、宗教問題は他人事ではないはずだ。 

    日本では外国人観光客が増えて政治家も経済界も喜んでいるが、外国人が「お客様」として来る間はいい。だが、日本に住み、日本人と同じ権利と義務を有する「移民」になると、様々な問題が生じてくる。多文化・多宗教・多民族が共存する社会の構築という、これまでに日本が経験したことのない新しい課題をどう解決するのか、今からじっくり検討して、将来に備えて欲しいと思う。欧州の轍を踏まないように。

    一連の宗教絡みの紛争、テロ事件を見ていたら、米原万里さんの「真昼の星空」(中公文庫)の一節を思い出した。「グルジアの居酒屋」というエッセーで、居酒屋の掲示板に次のように記してあったという。少し長くなるが、ここに引用する。

    「飲酒が宗教を信仰するより優れている八つの理由

一、未だ酒を飲まないというだけの理由で殺された者はいない。

二、飲む酒が違うというだけの理由で戦争が起こった試しはない。

三、判断力のない未成年に飲酒を強要することは法で禁じられている。

四、飲む酒の銘柄を変えたことで裏切り者呼ばわりされることはない。

五、しかるべき酒を飲まないというだけの理由で火炙りや石責めの刑に処せられた者はいない。

六、次の酒の注文をするのに、2000年も待つ必要はない。

七、酒を売りさばくためにインチキな手段を講じるとちゃんと法で罰せられる。

八、酒を実際に飲んでいるということは、簡単に証明することができる。」

    人間は21世紀になっても愚かな争いを続けている。いつになったら目覚めるのだろうか。

 2015年1月27日)

戻る